この世界には妖精が暮らしていることを知っていますか?
私たちにはその姿が見えないけれど、すぐ隣でひっそりとつつましやかに、その毎日を過ごしているのです。
そしてあまり知られていませんが、妖精も私たちと同じ悩みを抱えながら、こころの安らぎを求めています。
これはそんな妖精たちが、こころの安らぎを追い求める物語です。
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メメントくんの家から、隣の隣のそのまた隣。可愛らしい兎のような姿をした、エアリーさんという妖精が暮らしています。
エアリーさんはとても優しくて、友だちが多い一方、誰にでも優しいエアリーさんをいまいましく思う妖精もいるようです。
エアリーさんって八方美人じゃない?誰にでもいい顔して、そこまでして好かれたいのかしら。
そのウワサはエアリーさんの耳にも入ってしまいました。もしかしたら自分は全員に好かれたいだけの、いやしい妖精なんじゃないかと、エアリーさんは気に病んでしまいます。
でも、エアリーさんからしてみれば、ただ普通に接しているだけです。
ある日メメントくんは、エアリーさんの家を訪れました。あんなにお日さまが大好きだったはずのエアリーさんが、ここのところちっとも外出していないからです。
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メメントくんはエアリーさんに、どうしてお家に引きこもるようになってしまったのか、その理由を尋ねてみることにしました。
するとエアリーさんは、小さな声で語り始めました。
こないだ、仲良しのエーさんとビーさんが喧嘩をしてしまったの…
エーさんは勉強ができる妖精で、ある試験でとても良い点数をおさめました。そしてそのことを、ビーさんに自慢したのです。同じ試験で点数のよくなかったビーさんは、いい気はしませんでした。
やがてビーさんは、エーさんは自慢する嫌なやつだ、とかげで悪口を言うようになります。色んな人にそう話すようになっていたので、その陰口は当本人であるエーさんの耳にも入ってしまいました。
それからエーさんとビーさんは、ギクシャクとした関係になってしまいました。そして、エアリーさんと仲良しだった2人は、それぞれに、嫌な思いをしたことをエアリーさんに話しました。
エアリーさんは、エーさんにこう話しました。
勉強を頑張って良い点数をとれたら嬉しいもんね。誰かに話したくなるのも、あたりまえだと思うわ。エーさんは、とても頑張ったのね。
そしてビーさんには、こう話しました。
わたしも点数があまり良くなかったの。誰にだってコンプレックスはあるものだから、ビーさんの気持ちは、とてもよく理解できるわ。
エアリーさんは2人の気持ちをおもんぱかって、思ったことを正直に伝えました。
でも何故か、それからエーさんもビーさんもエアリーさんを避けるようになってしまいました。どうやら、エアリーさんの話したことが、それぞれに伝わってしまったことが原因のようでした。
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エーさんとビーさんは、自分だけではなくて、それぞれが嫌に感じていた相手にもいい顔をしていたエアリーさんのことが気にくわないようでした。
エアリーさんって八方美人じゃない?誰にでもいい顔して、そこまでして好かれたいのかしら。
そうして、このようなウワサが流れるようになったのです。
そのことを知ったエアリーさんは自分を責め、誰かに会うことすらも怖くなってしまい、家に引きこもるようになったのでした。
メメントくんは考えました。
エーさんは、ビーさんの気持ちを考えないで自慢してしまったのがよくなかったし、ビーさんはその反撃をするかのように陰口をたたいたのがよくありませんでした。
きっとわたしが2人に、そのこともちゃんと注意できていたらよかったのね…
確かにそのほうがよかったのかもしれません。でも、メメントくんは思いました。エアリーさんがそこまでしなくてはならない責任が、本当にあったのでしょうか。
エアリーさんは、誰をけなすこともしていません。相手のことを思って、本心を伝えただけなのです。その言葉が本当に、誰かを傷つけたことになるのでしょうか。
メメントくんは、エアリーさんにこう言いました。
エアリーさんは、とっても優しい妖精さんですね。
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メメントくんは、エアリーさんと一緒に家を出ました。
季節は冬。久しぶりに外に出たエアリーさんは、白い息を吐きながら、薄く積もっていた雪を見ていました。そして、あっと声を出して、道のほとりを指差しました。
雪の結晶がクルクルと回り、キラキラと神秘的な模様を描いています。
それはダイヤモンドダストと呼ばれる、氷晶が宙を舞う自然現象でした。
これからも、自然な自分のままでいられたらいいな。エアリーさんはキラキラと光る雪の結晶を見ながら、そんなことを思うのでした。
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